エッセイ エッセイのバックナンバー

旦那の両親はかってY社系の牛乳販売店を営んでいました。高度成長期真っ只中の昭和30、40年代に従業員、事務員を数十人雇い手広く店を繁盛させていました。そんな中で幼少期を過ごした旦那は蝶よ花よ(男の場合はこう言うのかどうかわかりませんが)と育てられお手伝いのお姉さんたちに世話をやいてもらいながらおぼつちやまの生活を満喫していたようです。小学校に上がるまで自分でお尻も拭けないくらいとんでもないバカボンだったとか、絵が好きでスケッチブックを買ってもらっても1日で使い果たしてしまうので毎日買ってもらっていたとか。

ところがそんな生活が一変。両親の不仲、離婚、母の再婚と人生で一番多感な時期に家庭の温かさを知らず、孤独な日々を過ごすことになったそうです。まさに天国と地獄でした。私たちが結婚してからも母達は販売店を細々と続けていましたが、そこにあのY社偽装事件が起きたのです。それをきっかけに廃業に追い込まれてしまいました。大会社で優良企業だったはずなのにあの事件ですっかり信用はガタ落ちです。信用とは築くのに長い年月がかかりますが失うのは一瞬ですね。

今年旦那は写真家生活30周年になります。この30年の間に日本の社会もずいぶん変わりましたね。写真の業界もフィルムの時代にはカメラマンは特殊技術をもつ人でしたが、デジタル時代になりカメラの性能が飛躍的に進歩し素人さんでもある程度のレベルのものが撮れるようになりました。となるとプロとアマの違いを出せるのは「感性」の部分でしょうか。奇をてらう方法もあります。都会の風景をミニチュアのように撮るとか、コスプレの家族写真を撮るとか確かに面白いですし流行りました。ただ後世に残るかと言われたらどうでしょうか。それは誰にもわかりません。30年もこの仕事をやっているといい時も悪い時も経験してきました。そんな中昨年は特に人生の大ピンチでした。仕事もプライベートもどん底状態でした。そういう状況の時には人間は深く物事を考えるものですね。仕事のこと、夫婦のこと、家族のこと、まさに人生を見つめ直す時期だったのかもしれません。しかし有難いことに諸先輩、友人、後輩からずいぶん励ましや助言などをいただきました。つくづく旦那は人に恵まれていると感じました。仕事の信用も大事ですが、人としての信用はもっと大切なことだとしみじみ思った一年でした。

友人の坂之上洋子さんがブログでこんなことを書いていました。「みんないろいろあるのよ。生きていると。でも回り道はすればするほど、必ず素敵なことが倍増して帰ってくる。」と。さすが洋子さん、良いこと言いますね。

このTOKYO BAYの入道雲の写真を飾るとご利益があると何人もの人から言われ、我が家のリビングにも飾り毎朝拝んでいます。(笑)

写真家 野寺治孝
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