エッセイ エッセイのバックナンバー

 音楽アーティストのCDジャケットやツアーパンフレットを多く手がけていらっしゃるアートディレクターのKさんから初めてうちに電話がかかってきたのはもう14年も前のことです。「12月に発売予定の松任谷由実さんのCDジャケット用の写真を撮り下ろしてもらえませんか?」と。こんな依頼がきたときにはきまって旦那が言うセリフは「ねぇねぇ、今どんな依頼が来たと思う?」と私にうれしそうに尋ねるのですがそのときも同じでした。コンセプトはハワイでサーフボードを撮るという内容で、松任谷ご夫妻にはすでに前年に出版した野寺の写真集「TOKYO BAY」でプレゼン済みで承諾ももらっているとのことでした。

 それまで私は全然知らなかったのですが、実は旦那は隠れ(?)ユーミンファンだったのです。旦那のレコード棚などめったに見たことはなかったのですが、荒井由実さん時代から最近のものまでなにげにあるんですよ。70年代に青春を過ごした旦那にとってはユーミンの音楽はそれまでの歌謡曲や演歌とはほど遠い世界で、旦那曰く、「四畳半と味噌汁のにおいのしない音楽」、「クロワッサンとカフェオレの香りのするおしゃれな音楽」とのこと。後にニューミュージックと呼ばれました。当時の日本の若者たちはまだまだ「神田川」の世界を引きずってましたから。旦那も真冬にドテラを着ているような生活してたらしいですし。そんな世相のなか若者たちにとってはハイソでセンスのいいユーミンワールドは憧れでしたね。80年代に入って女子大生ブームがあったりして若者がだんだんカッコよくなっていってユーミンの世界観に近づきつつあるなか、さすがユーミン、いつも一歩も二歩もその先を行っていましたね。私も高校生の時によく聴きました。「翳りゆく部屋」とか「魔法の鏡」とか好きでした。懐かしい・・・

 ところが、撮影の予定は確か10月くらいだったかと思いますが肝心のサーフボードの制作が遅れていてだんだんロケのスケジュールがタイトになってきました。そして結局ハワイへ行くことも撮影の日程も合わなくなり残念でしたがこの仕事はお断りすることになりました。あとで聞いた話ではその撮影は国内のビーチで1日で撮ったそうです。(雨が降ったらどうしたんだろう?余計な心配でしょうけど)けっこうみんなギリギリでやってるみたいですね。大変。ちなみに発売されたCDは「スユアの波」というタイトルです。

 それからまたしばらくしてKさんから今度は元ちとせさんのジャケット撮影を依頼されました。結局そのときも元さんのレコーディングが長引いていたこととうちの海外取材とバッティングしたためにお流れに。私達も「何となく縁がなかったねぇ。二度もお断りしたらさすがに三度目はないよねぇ・・・」と残念に思ったものでした。

 もうそんなこともすっかり忘れた頃、2006年の年明けにまたKさんから連絡がありました。松任谷さんのツアーパンフレット用に写真を貸して欲しいと。その後、話どんどんが発展して結果的には由実さんとハワイロケに行くことになりました。旦那が喜んだことは言うまでもありません。このときの写真はジャケットやツアーパンフレット、DVD等(CDのタイトルは「A girl in summer」ツアーパンフレットとDVDのタイトルは「The Last Wednesday」)に使われました。歴史あるユーミンのアルバムの1枚に参加できたことはユーミンファンの旦那にとって人生で最高にうれしいことだったと思います。だって彼女は日本を代表する国民的歌手ですものね。

※電子版写真集「TOKYO BAY」は近日中に発売予定です。友人でもある江口貴勅氏作曲による「TOKYO BAY」が聴けます。詳細は別途告知いたします。

集英社より近々下記の本が出版されます。野寺の写真も掲載されます。
①ユーミンさんの歌詞本「松任谷由美歌詞集373+1」
②ユーミンさんのフォトストーリー「松任谷由美1971~2011フォトストーリー THE ユーミン」

 

写真家 野寺治孝
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