エッセイ エッセイのバックナンバー


 このたびの地震、津波で震災された方には心よりお見舞い申し上げます。こんな時期ですがこの震災に関して書きとめます。震災の日、私はパラスパレスの夏用カタログの撮影で沖縄県那覇市にいました。ちょうど帰りの便を那覇空港で待っているときにテレビのニュースで知りました。生中継の津波を見て「これは大変なことが起きた」と直感しました。結局飛行機は欠航し1日遅れで浦安に戻ってきました。幸い家族にもケガ人は出ませんでした。ニュースなどで伝えられているような液状化も旧市街なのでありませんでした。ライフラインももちろん大丈夫でした。しかし部屋の中は棚が落ち、CD、本、レコード、食器などが落下し破損していました。特に仕事部屋はどこから手を付けたらいいのかわからないほど散乱していました。幸いパソコンは無事でした。ストレスのせいかひどい下痢に見舞われ2日間何も食べられなくなり、おかげで腸がきれいになりました。(笑)

 震災後、2日経ってからスーパーから食料品が消え、隣のガソリンスタンドも車の長蛇の列、原発も危険だったので家内の実家、富山県に帰省しました。しかし富山にいても安心感は得られず、胸には重い鉛の塊がつかえているようでした。これではいかんと思いカメラを持って町に出ましたが、すべてが悲しく、虚しく、いいしれない虚無感に襲われました。そんなとき息子の明るさと温かく接してくれたと富山の両親には感謝しています。映画「あしたのジョー」を息子と一緒に見に行き元気を取り戻しました。

 少し落ち着いてきたので浦安に戻り、まずは手付かず状態だった写真展の作品の制作から始めました。その合間に買出しや部屋の片付けと修繕をしました。何人もの友人が心配して連絡をくれました。有難かったです。

 私は信仰を持っていません。神の存在もわかりません。もし神がいるとしたら「あなたはなぜこのような惨い災いを起こしたのですか。そしてこれは何のためのメッセージなんでしょうか」と言いたいです。今まで我々は贅沢や資源をムダに貪りました。例えば、電気をムダに使い明るくしすぎていました。冷房や暖房も使いすぎていました。これからはライフスタイルを見直したほうがいいのではないでしょうか。みんながほんの少し今までよりも我慢をすればいいだけのことです。

 こんな時でも日本人ってすごいですよね。略奪も暴動も起こりません。ボランティアや譲り合いの精神も立派だと思います。世界に誇れますね。でも一方でこの震災を逆手にとり、金儲けや詐欺を働く人もいます。まったく顔を出さない政治家もいますね。

 正直、私は何もできない臆病者です。被災地の方にはどんな言葉をかけてよいのかもわかりません。すべてを、大切な人を失った人に「がんばれ、明日に希望を持って下さい」なんて言えません。考えるほどに自分の力のなさに打ちのめされ、心が重くなってしまいます。一写真家に何ができるのか・・・考えたあげく、というより自然にそう思ったのですが、出番はこれからだと思っています。世の中が少し落ち着いてきた時、人々の心を癒す音楽や写真が必要になると思います。その時に何かできることがあるのではと思っています。今は写真展に向けてがんばるだけです。こんな時ですがあえて言います。「みなさん、元気出していきましょう。日本を立て直しましょう。とりあえず自分にできる小さなことから」

写真家 野寺治孝
All images copyright © Harutaka Nodera. All Rights Reserved.