エッセイ エッセイのバックナンバー

 4月5日に待望の写真集「旅写」、「すべての空の下で」が2冊店頭に並びます。このHPでもお知らせしましたのでご存知かと思いますがよろしくお願いいたします。

 このエッセイも旅写の印刷立会いの合間に竹橋の印刷所で書いています。印刷立会いというのは印刷の最終チェックです。皆様のお手元に届く本の色はここで最終的に決まります。印刷したての本(本と言っても製本されておらず、1枚の大きな紙です)はインクがまだ乾いておらず色が鮮やかで、とてもきれいです。これが時間が経過していくほど色が落ち着き、本来の色になっていきます。このことをドライダウンといいます。ですから、この差を見越して判断をしていきます。これが微妙で、読みと勘が必要となります。この作業が本作りの最終のツメですね。

 写真集作りの最初の仕事は企画です。どういった写真で、どんなテーマで、どのような本にしたいのかを明確にして出版社にプレゼンします。私は10ージ前後のダミーを作ることにしています。ここで本の印象が決まってしまいますので、最初のヤマと言ってもいいでしょう。今回は「旅写」を例に書きます。最初、私は純粋な写真集を考えていました。ところが出版社としては「ムック本として出したいので雑誌的な要素、すなわち文章や旅やカメラの情報も入れたい」という意見でした。正直、少し戸惑いましたが「それでは最高の雑誌を創ろう」と気持ちを切り替えました。昨年の夏ごろの話です。私は大型書店に出向き、片っ端から雑誌を見て回りました。しかし、お手本になるようなものは見つかりませんでした。そんなある日、今回のアートディレクターが1冊のブランドカタログを見せてくれました。おしゃれで落ち着いていてセンスが良かったのでピンときました。こうしてデザインの方向性が決まったのです。タイトルも難航しました。最初は「旅する写真」で決まりかけたのですが、すでに使用されていたので没。かなりの数が提案されましたが、「旅写」がシンプルでわかりやすく、流行語っぽくていいということになりました。写真選びは10万枚以上の中から絞りこみ、最終的にはアートディレクターと私とで決めました。私の基準は「この写真が好きだから載せたい」一方でアートディレクターは「ページを見開いたときの色のバランスと目の導線が大切」という観点で選びました。そして各国のエッセイを書き、最後にカメラや道具、そして坂上みきさんとの対談を載せました。写真のほうで悩むことはほとんどありませんでした。校正といって誤字、脱字をチェックするときが一番大変でした。途中で投げ出したくなりました。しかし関係者皆様の協力で一字一句集中して作業することができました。 

 今、思い返してみるとそれなりに苦労することもありましたが、とても楽しい作業でした。写真家にとって本を出せるのはとても喜ばしいことです。写真集作りが終わってしまうことは一抹の寂しさもありますが、充実感と喜びのほうが大きいですね。「旅写」を例に書きましたが、「すべての空の下で」も同じような作業でした。2冊ともとてもいい写真集だと自信を持って言えます。ぜひお手に取って見てください。

 

写真家 野寺治孝
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