エッセイ エッセイのバックナンバー


 今回はポートレート(肖像写真)について書きます。知人または知らない人に声を掛けて相手が了承してから撮る写真をポートレートとします。赤ちゃん、スナップは例外です。場所は外でも室内でも構いません。昔はよく「その人の内面までも写し取れ」と言われました。内面てなんでしょうか?本当の意味での他人の内面なんてわからないと思います。ましてや心理学者ではありませんしね。私はあえて他人の内面にまで踏み込む勇気はありません。

 モデルとなる方と撮影前に必要以上の会話はしません。初対面の方も同じです。お互いぎこちないまま撮影が始まってしまうことも珍しくありません。ぎこちないときはそれを逆に面白いとして撮ってしまいます。それもその人の表情の一つだからです。ただ、撮影の前に一言だけお願いするのは「恋人を待っているような気持ちになってほしい」「遠くを見て今までで一番楽しかったことを思い出してほしい」などとシチュエーションだけ設定します。あとは自由にしてもらいます。ちょっとだけカッコよく言ってしまえば私とモデルさんの会話はカメラでします。モデルの方(特に女性)はシャッター音でノッてきます。極端な人は1分後には別人のように表情が豊かになってきます。アラーキーさんのように誉めちぎるようなことはしません。というより恥ずかしくて私にはできませんね。人を撮るのはやはり一番緊張します。怖いときもあります。その人にかなり近づくわけですから。体温や息遣いをリアルに感じます。大げさに言ってしまえば「この人は生きている。今、命を撮っている。もしこの人が死んでしまったらこれが最後の写真になってしまう」と思ってしまうこともあります。そう考えるととても愛しく思えてきます。

 技術的にはとにかく枚数を撮るようにしています。人は一瞬一瞬表情を変える生き物です。準備としてはまず最高の背景を選ぶことではないでしょうか。シンプルにいくのか、そのモデルさんを表す場所(例えばサーファーならば海)でいくのか。風景に溶け込ませてしまう場合もあります。(モデルさんを小さく入れる)レンズは背景がきれいにボケる70ミリから135ミリくらいの中望遠がいいでしょう。ちなみに私は100ミリを使い基本的に絞りは開放です。時々セオリーを無視してワイドも使います。一番難しいのは私の気に入ったカットとモデルさんの気に入ったものがちがう場合ですね。ですからとにかく数を撮ります。まばたきの多い方もいますね。

 多少の得手不得手はあっても「風景の上手い人はポートレートも上手い。逆も然り」と思います。要するに被写体が何であれ自分の感性と目を持っているということが大切ではないでしょうか。まずは身近な人から撮ることをお奨めします。裏をかえせば身近な人のポートレートほど難しいものはありません。理由は撮ってみればわかると思います。

写真家 野寺治孝
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