エッセイ エッセイのバックナンバー

 いつも同じ気持ちで撮っているのに出来上がった写真が面白いものとつまらないものがあるのはなぜでしょう? それも圧倒的に後者が多いのです。

 昔、外国へ撮影に出かけたとき、かなりいい感じで撮れたので帰国後現像して出来上がった写真を見てみるとあまりのひどさに卒倒しそうになるほどがっかりしたことがあります。写真家ならば誰でも何度となくこのような気持ちになったことがあるのではないでしょうか。それほど写真とは難しいものなのでしょうか? ただシャッターを押すだけなのに・・・面白い写真とそうでない写真とを分けるものとはいったい何なんでしょうか。それが解れば苦労しませんよね。

 そこで私なりに考えてみました。撮るときに被写体に向かってまず感動があります。これは基本です。「なんてきれいな海なんだ」とか。次に感動している自分のうしろにもう一人冷静な自分を置いてみます。冷静に今見ている感動的な被写体をどうやって写真上に定着させるかを考えている自分のことです。もうひとつ大切なことがあると思います。それは平面的にではなく立体的に物を捕らえたいと思う感覚のことです。このことは言葉ではうまく説明できませんが、例えば自分から被写体まで10メートルの距離があったとします。このとき被写体だけを撮るのではなくカメラから被写体までの空間をも撮ってしまいたいと思う感じです。言ってみれば平面ではなく目に見えない立体的な空間を捕らえるということです。このことが出来上がった写真に奥行きと深みを与えると思います。そんなことを考えて撮っていたら被写体が逃げてしまうと思うかもしれません。ごもっともです。ですからこれらのことが瞬時にできる準備をしておくのです。スポーツで言えば毎日の反復練習にあてはまります。無意識のうちに体を感覚的に使えるよう覚え込ませるのです。

 ではどんな練習をしたらいいのか。基本は刺激的な写真をたくさん見ることです。自分にとって好きなものもどうしても受け入れられない嫌いなものもです。月に一度くらい大きな書店に行き写真集はもとより雑誌も片っ端から見ていくのがかなり勉強になります。とても気に入ったものは購入しじっくりと見ましょう。あとは前にも書きましたが写真以外のことにも興味をもつことです。写真バカはいけません。視野が狭くなります。音楽や映画、書物などなんでもかまいません。それらがやがて作品に反映され写真に深みを与えると思います。

 あと大切なことは撮るときに「撮るぞ!」という強い意志を持ちシャッターを切ることです。「とりあえず撮っておこう」はバツです。力むことはありません。体をリラックスさせ目には力を入れることがコツです。野球に例えるならば、バッターボックスでは不要な力を入れずボールを打つ瞬間にだけすべての力を集中させるということです。結果オーライのポテンヒットはいけません。アウトでもいいからジャストミートを心がけてください。それが次への大きな飛躍となります。写真に結果オーライはないと思っています。たまたま結果がよくそれに慢心していると必ずしっぺ返しに会います。意味もなく水平線を曲げて撮るのは私の中ではバツです。曲げるときは曲げるという意志を持って曲げます。

 私なりの結論としては、「いい写真とは作者の強い意志の入ったものできれいで写っているもの以上に何かが写っているものです」そのような作品は見た瞬間、写真から風が吹いてきます。言葉以上の何かがそこには存在しています。そのような写真をたえず撮りたいと願っていますが難しいですよね。

写真家 野寺治孝
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