エッセイ エッセイのバックナンバー

 私の中でかなりウェイトを占めている仕事のひとつに作家活動があります。仕事と言ってしまいましたがほとんど利益にはなりません。むしろマイナスのほうが多いかもしれません。具体的には、写真展開催、写真集そしてオリジナルプリントの販売です。

 写真展の場合、まずギャラリーを探します。カメラやフィルムメーカーギャラリーは基本的には審査があり、それに通れば無料で借りることができます。しかし、作品制作は自費なので一回の展覧会で30万から50万円の持ち出しです。

 写真集を出版するのは本当に狭き門です。出版社としては制作費がかかって、売れても1万部程度の写真集を出すというところはほとんどありません。(アイドル写真集やタレントが撮った写真集は100万部くらいは売れる)今までに一番売れた写真集は「月光浴」で10万部と言われています。1万部売れたとしても印税は大した額ではなく、1回の海外取材費で消えてしまいます。

 オリジナルプリントが売れるということは年に数点です。日本では写真を買うという習慣がありません。

 ではなぜプロであるのに儲からない作家活動をするのか? 一言で言ってしまえば「自分の写真が好き」これに尽きると思います。世の中にコマーシャル写真ばかりでは面白くありませんよね。

 私を含めたほとんどの人達はブランド名、賞、著名な評論家の評価、いわゆる肝心の品物の中身よりも包装紙に弱いものです。特にアートの世界は料理のように「おいしい、まずい」とか、スポーツのような「勝った、負けた」がなく実に曖昧なものです。ある人に私の一番好きな写真家ジョエル・メイロウィッツの本を見せたところ、「何も感じない、つまらない」と言われてしまいました。ところが逆にその人が見せてくれた写真に私は何も感じなかったのです。それどころか嫌悪感すら感じてしまいました。

 これから写真を見るときはできるだけ気持ちをピュアでニュートラルな状態にして器や評価を気にしないで内なる心の目で見てみたらどうでしょう。

 答えはひとつ「好きか嫌いか」これに尽きると思います。例えその作家がロバート・キャパでも。

写真家 野寺治孝
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