エッセイ エッセイのバックナンバー

 私は俗に言う建築写真家ではありません。しかし、依頼の仕事で一番多いのはなぜかこの分野なのです。10年くらい前まで建築写真は写真の仕事のなかでも特殊だったそうです。パースのない(下から見上げたビルの写真なのに上が小さくなっていない)写真でそこには人の住む気配のない、いわゆる竣工写真でした。最初この仕事がきたときには驚きました。「私でいいんですか?」と思わず聞いてしまいましたがクライアントは「生活感や空気感がある写真が欲しいのです」と言ってくれたので引き受けることにしました。

 撮影現場で一番大切にしていることは自分にとってどこが一番居心地のいい空間かということです。そこを撮ればきっと見てくれた方にもその気持ちが伝わると思うからです。しかし、注意しなければならないことは私自身はその現場にいて五感すべてに感じることができているわけですが、写真は2次元になってしまうので少しだけ説明的なカットが必要になってきます。具体的には部屋の角から撮った45度写真が最もわかりやすいということです。縦位置横位置はどちらでも収まりのいい方で良いと思います。レンズは16-35ミリのワイドズームを使用しています。絞りは8か11。時には思い切って開放のときもあります。これもスティルライフ同様空気感を大切にしています。天気は気にしません。自然には逆らえないのでその日の光を読み、最高の光を捉まえるよう心がけています。露出は3分の2づつ段階露光し3枚、自信がないときには6枚撮ります。これは紙面に使うとき大きさによって選ぶ写真が違うからです。大きく扱うときは暗めのほうが黒が絞まって良いのですが、小さいときは逆につぶれてしまうので明るめのほうを選ぶからです。

 庭に咲く花やインテリア小物、出していただいた食事なども積極的に撮ります。これは人が住んでのインテリアなのでその方の人となりが少なからずこれらのものに反映され、読者の方に伝わるのではないかと思えるからです。スタイリストは使いません。私の中ではこう撮らなくてはならないというルールはないのですから建築も風景もポートレートもそんなに隔たりはありません。要は「自分がいいなと思える瞬間を伝えたい」これに尽きます。結局はハワイに行こうが人様のお部屋に行こうがそんなに違いはないと思います。
写真家 野寺治孝
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